瑞牆山 銭湯とビールは欠かせない

朝5時半に起床。シャワーを浴び、登山の荷造りに取り掛かる。大丈夫かとは思うけど一応長袖のシャツとレインウェアもバックパックに詰める。6時半に出発。恋人さんがまだ眠たそうな顔で見送ってくれた。今日接近するとニュースで言っていた台風の影響が心配だったけど、空一面青空が広がっていた。予報でも夜まで晴れマークがついていたので、絶好の登山日和といえそうだ。新宿で特急あずさに乗って、韮崎からバスで瑞牆山荘へ向かう。3時間ほどかけて到着した。登山計画書を出して10時30分にスタート。登山道にはいり多彩な緑の中を進んでいく。気温の上昇とともに、吸水性と速乾性に期待して着てきたTシャツはその期待とは裏腹に汗をかけばかくほど不快さを増してきた。これは完全に失敗だ、もう耐えられないとなり、替えのTシャツに着替えた。汗を吸ったTシャツはかなりの重さになっていた。自分が想定以上に汗をかいてしまったというのか、シャツを蔑んだ目で見やる。もうこれは家のパジャマにすると決めてコンビニの袋に突っ込んだ。巨大な岩をよじ登りながら山頂を目指す。岩が積み重ねられてできた山なのか、登れど登れど巨岩が道に立ちはだかる。傾斜が急な登りが続き、足に疲労が溜まって立ち止まる頻度が多くなる。息を切らし汗は替えたTシャツをも間もなくびっしょりと濡らした。持参した水もハイペースで減っていく。山頂手前にある大ヤスリ岩が見えてもう少しだと自分にハッパをかける。開始してから二時間と少しの時間で登頂。残念ながら山頂はガスっていて周りの視界はほぼ見えずだった。しかし風が吹き、ガスが流れてその切れ間から景色がうっすらと現れ始めた。現れたのは異界を思わせるような、雲をまとう直立する岩山の姿だった。目が見開き、これはすごいぞと慌ててシャッターを押す。岩壁の周囲の雲が霞み流れていく様を見た。僅かな時間だったけど、この瞬間でなければ見えない世界が広がっていた。その後ですぐにまたガスが広がり、しばらく粘ってみてもガスは晴れなさそうなので下山を開始する。帰りのバス時間もあるので帰りは急ぎめでいく。ところが、10分くらい進むと上空は青い空が勢力を増して広がり始めた。あ、今戻れば頂上も晴れているかも。バスの時間も気になるけど、ガスがかかっていない頂上からの眺めも見てみたい。うーむ、どうしようかな。何人かが僕を追い越していく。少し進んでは止まって空を見てを数度繰り返す。まだ薄墨色の雲も停滞していた。山は期待通りにいかないものだ、踏ん切りつかないなら止めよう。そう決めて下山を開始する。残り三分の一ぐらいの場所に位置する富士見山荘を過ぎたあたりから太もも内側がつりそうになりながらも、なんとか持ちこたえてくれた。予定より30分前に瑞牆山荘に到着。自販機前に置いてあった椅子に座り、靴を脱ぎ足を伸ばして脱力する。汗でびたっと肌に密着しているTシャツを脱いで、タオルで身体を拭く。既に予備の一枚を着てしまったので、替えは長袖のロンTしかもうない。仕方なくそれに着替えた。自販機で冷たい缶コーヒーを買って飲む。身体の中には新鮮な酸素が循環され、目は本来の光感受機能を取り戻し、ダイナミックな自然に生きている感覚が呼び起こされる、そんな登山だった。人工的な匂いを削ぐのに登山はいい。19時に新宿に戻ってきた。帰りのあずさも全席完売でほぼ立ちっぱなしだった。僕が住む街に着いて、何よりも先にお風呂に入りたかったので忘我の湯(仮名)に行く。お湯の気持ち良さにアーとかウーとか言いながら、湯船の中で力つきた廃人みたくぽけーっとなった。湯を堪能した後に、恋人さんと煩悩食堂(仮名)に行き、真っ先に頼んだビールをグビッといく。染み渡るアルコールが全身の力を奪っていき、僕は快楽の奴隷に甘んじて成り下がる。ああ、汗水流してたどり着いたこの美味さよ、火照る身体に恵みとなるこのキンとした冷たさよ、喉元弾ける美泡の心地よさよ。これで今日の1日を最高の形で終わらすことができる。あとはもう寝るだけ。ぐっすり深く、寝れそうだ。